拝啓 親愛なる共犯者様
橋の上から目的の姿を見つけ、同時にその影が腕に抱えた物がなんであるかも察した賢人は大きくため息をついた。
堤防をひらりと降りると、上機嫌な鼻歌に出迎えられる。
燃えるような夕焼けに照らされた水面がきらきらと反射し、耳に届くのはどこか哀愁を感じさせるメロディ。
こんな状況でなければ情緒があるのだろうなと賢人は人ごとのように思う。
切りの良い所まで歌い終えたのであろう曲が止まり、河原に座る男が振り向いた。

「遅かったね」
「そのようだ」

三弦トウカが一般人相手に刀を抜いたとの情報が入ったのはつい先程。
現場には首の無い遺体が転がっていただけだった。
第二第三の被害を出すわけにはととぎれとぎれの血痕を辿り、いくつかの首無し死体を横目に着いた場所がここだ。

「戦闘区域外、しかも一般人に対しての戦闘行為は慎めと言っているだろう」
「今日殺したのは外人だけだよ?」
とがめられた言葉を気にもせず、流れる川に視線が戻される。
「ケントが日本人同士での争いは嫌いなのは知ってる」
膝の間に刈り取ったばかりであろう生首を抱えたまま、トウカは語る。
「でもね、既に卑劣な外人どもはかなり深くまでこの国を侵食してる。
その餌である誇りを忘れた愚かな白派どもを貪ってね」
表情は見えずともその声はどこか笑いを含んでいた。
抱えていた首をゆっくりと沈み行く夕日に掲げる。
「腐った部分は、まわりごと削り取らないと」
まだ乾ききらない血が切り口からしたたり、白い手袋を伝っていく。
年端もいかぬ少年の光り無い目が賢人を見据えていた。

「…子供か」
「関係ないよ」
所々赤黒く染まった金髪を撫でながらトウカは笑う。
「遅かれ早かれ外人なんて一匹残らず駆逐しなくてはね。
それならば老若男女皆等しく。行き着く先は同じだろう?」

おそらく殆ど全てをトウカが担ったであろう外国人、主に金髪を狙った戦闘区域外での殺傷事件は増加の一途を辿っていた。
その影響で周辺地区では欧米諸国の流れを組む者達はなりを潜め、早々にこの地を後にする者も出ていたのは事実だ。
確かに、行き着く先への早急な手段かもしれない。
だが。

「僕を利用すれば良い」
眉間に皺を寄せたままの賢人の思考が引き戻される。
すっかり藍色に染まった水面にぽいと首を投げ捨て、トウカが立ち上がった。
思ったよりも軽い水音が耳に届く。

「君の立場上強行な手段に出られないのは知ってるよ。性格もあるかな?」
それは、と言いかけて続く言葉を飲み込む。
カツカツと音を立て、トウカが賢人の目前に迫っていた。濃い血の臭いが鼻をつく。
「君の命令は素直に聞くし、最後まで黒軍の為に持てる力の全てで戦う事を誓う」
トウカが愉快そうに口の端をつり上げた。
「その代わり、君の権限で僕の自由を保障してよ」
耳元で囁かれたセリフ。
すれ違うようで一致する利害関係に賢人はただ沈黙を返す。


それは暗に肯定を意味していた。