有沢薄荷さんより




―→ 小舟の唄


少女が暫く目を離しているうちに、縁側の青年はすっかり眠りこけていた。
茹だる暑さという程ではないが、熱を含んだ空気はまだ行動圏内に滞っている。青年が暑そうだったので何か良いものはと室内を探し、目当ての物を取って戻ればこの通りだ。
お風邪を召されますよ、ぽつりと少女は呟いた。届かないことなど分かっている。
少女は再び室内へ戻り、取ってきた上掛けで青年の腹を覆った。散々子供扱いしておいて、これではどちらが童なのか分かったものではない。
青年の傍らに腰を下ろした少女は、先程探し出した団扇で青年をそっと煽いだ。
規則正しい寝息が、暑さを一瞬忘れさせる。少女の生まれ育った土地よりは、幾分過ごし易いだろうか。

常識というものが数え切れぬほどあり、それぞれに大きな差があることを、少女は閉ざされた世界の外に触れて実感した。集団にせよ個にせよ互いに”違う”ということを、それを拒絶するのではなく受け入れる強さを、まだ自分は手に入れていない気がする。
まだまだ人生経験が足りないと、少女は日々痛感する。年齢の割にしっかりした子と評されることの多い少女だが、所詮は年端も行かぬ童に過ぎぬのだと、当人が一番良く分かっていた。
少女が初めて知った外の世界。誰もが優しく受け止め、見守ってくれる場所。ここでなら確かに、一足飛びになどせずゆっくり大人になればいいのかもしれない。本来そういうものであるのかもしれない。
それでも気ばかりが焦って仕方無い。明日の保障など無いのが、少女に刷り込まれた感覚であった。
守りたい。強くありたい。許されるのならば、傍に居たい。
けれど、だからこそ、自らの手で大切な何かを傷つけるかもしれない。
少女の手が止まり、涙が透き通った団扇の表面を滑った。

穏やかな寝息が耳に届いた。

はっとして、少女は青年の寝顔を見つめる。
青年と出会った頃の自分は、こうして眠る姿を傍らで眺める日が来るなんて想像すらしなかった。今も昔も、きっとこれからもそんな具合なのかもしれない。
明日の保障が無いのなら、明日はまた来るかもしれない。
そうして積み重ねた未来にこの手が届いたら、少女は愛しい人に我儘を一つ言うつもりなのだ。一番に、などと贅沢は言わないから。二番でも三番でも、百番だって構わないから。
その日のためにも、こうして己を憂い嘆いてばかりはいられない。
少女はきゅっと目元を拭い、物音を立てぬようそっと立ち上がった。
青年が目を覚ますまで煽いでいたい気持ちもあるが、盥で西瓜でも冷やしておいた方が良いかもしれない。この美しい団扇は、水があった方が特性が生きて面白い。
団扇という道具の説明はした記憶があるから、例えこれを使って見せたとしても青年が手当たり次第に水に突っ込むことは無い筈だ。少女の出会った人々の中で最も”違う”であろう青年に関して、恐らく心配すべきはその点だけだろう。
さて、青年は驚いてくれるだろうか。少女の顔に、悪戯を思い付いた子供の笑みが閃く。

本当ならば、穏やかな川に小舟の一つでも浮かべて使いたいものだけれど。
いつかそんな日が訪れるだろうかと、少女は叶うかも知れない束の間の夢を見た。





何と、有沢さんが「ZA納涼」のイラストを見てこんなに素敵な小説を書いて下さいました!
まさか文章でコラボカップルを描いて頂ける日が来るとは思っておりませんでした…!
里から出てきたアクアの物思いとゾゾさんへの想いをこんなにも見事に描き表して頂けるなんて…!
文を追いながら浮かんでくる光景に、頬の緩みを抑えられません。
このアクアがとにかく可愛いんです!
大人びた考えで、だけどふとした瞬間に子供らしさを覗かせる様に、そう、アクアはこうだよ!と思わされます…!
水団扇に驚くゾゾさんと、そんな彼を見てふふっと笑うアクアの姿が見えました!
まだ先の、今は見えない未来の話だけれど、ゾゾさんはきっと一番にしてくれます…!
夏の暑さを和らげてくれて、それでいてほっと暖かくなる、素敵なお話をありがとうございました!

//緑風瑠璃//


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余りのサプライズに本気でびびりました。
ま、ま、まさか人様からZA小説を頂ける日がこようとはー!!うわああ、大興奮です。
小説ってイラスト1枚描くよりもキャラの心境や置かれている環境を理解していないとなかなか書けないと思うのですが、
有沢さんの書いて下さったこちらの小説は物凄くアクアちゃんの切ない健気な心境がしっかり表現されていて本当にニマニマドキドキしてしまいました…!!
しかしすっかりアクアちゃんはゾゾの奥さんして下さってますね!
団扇で扇いでくれたり、西瓜冷やしてくれてたり…羨ましいぞこいつぅ(笑)
水団扇というアイテムもまたアクアちゃんによく似合うんです。
ゾゾの存在が、少しでもアクアちゃんの支えになっていたらいいなーと思いつつ…。
有沢さん、ときめきをありがとうございましたー!


//春夏秋冬//